1/1ページ目 彼は、いつも僕を守ってくれる。気付けばすぐ傍にいて、サポートしてくれて…支えになってくれる。 いつからだろう、その逞しい腕の存在があるのが当たり前のようになってしまったのは。頼りにするようになってしまったのは。 渋谷が首を突っ込んだ厄介事に巻き込まれ、敵に囲まれた僕ら。 そして僕の前には、風に撫でられる鮮やかなオレンジ色の髪。見事な上腕二頭筋の持ち主。 「……ヨザック」 「俺から離れないで下さいよ、猊下」 「あ、うん…」 少し離れた場所でウェラー卿やフォンビーレフェルト卿に守られている渋谷が見える。 でも渋谷は、いざとなったら自らも戦える。僕みたいに守られっぱなしな訳じゃない。そう、僕みたいに…。 「まさか猊下…足手まといじゃないか、なんて思ってないでしょうね?」 「えっ?!」 僕の考えを読んだみたいなタイミングで言われ、心臓が跳ねた。 「アンタには、アンタの役割がある。分かってるで、しょ!」 敵と剣を合わせながらも、僕の身だけじゃなく気持ちまで気にしてくれるヨザック。 言われた事は分かってるけど、こんな場面になると、自己防衛もろくに出来ないっていうのはさすがにちょっと気がひけるんだよね。 「アンタはアンタの、俺は俺のやるべき事をやる!そんだけですよ!」 僕の役割はこの知識で渋谷をサポートする事。そしてヨザック…君の今の役割は、お庭番として僕を守る事。 僕が、大賢者と呼ばれる者だから…。 「…うん、そうだね」 間合いを開けるために数歩下がってきたヨザックが、僕の近くに寄ってきた。 「ついでに言いますけど、俺は別に…アンタが大賢者様だからお守りしてる訳じゃないですからね?」 「……え?」 考えていた事と反対の事を言われ、驚いて顔を上げた。 僕が大賢者だからじゃ、ない?それってつまり……。 敵が間合いを詰めてくる。目線はそのままで、少しだけ振り返ったヨザックは、僕だけに聞こえる声で続けた。 「アンタが好きだからですよ…!」 そう言うと同時に、ヨザックは足を踏み出した。滑らかな動作で剣をふるい、敵を叩き伏せると次の相手に切っ先を向ける。 今、ヨザックは何て言った? 僕が……好きだから?大賢者だからとか、僕が戦う術を持たない弱者だからじゃなく、ただ単に「僕」だから? 役割としてじゃない。個人的にも大切に思ってくれてるって、そう思っていいの? 任務に忠実で、場に応じて冷静に適切な判断を下せる優秀なお庭番。強く、優しく、時には厳しいボディーガード。 ヨザックは、獣のように美しくしなかやな動きで敵と切り結び、僕を守ってくれている。 つかず離れず応戦する君の姿を見ながら、こんな時なのに、そんな場合じゃないのに心臓が煩く鳴って顔に熱が集中した。 伝えてもいいだろうか?僕も、君が好きだから足手まといになりたくないと思ってたんだって。守られてばかりじゃなくて、僕だって君を守れるようになりたいんだって。 そしたら君は何て答えてくれるかな。きっと晴れた日の太陽みたいに明るく眩しい笑顔で、僕の悩みなんか吹き飛ばしてくれるに違いない。 それが、僕の好きになった君だから。 最後の一人を倒して剣を収めた後、ウェラー卿とフォンビーレフェルト卿の方も敵を倒し終えたのを確認したヨザックは、僕に振り返った。 「お怪我はありませんか?猊下」 「君のおかげで無傷だよ。ありがとう、ヨザック」 ホッとしたように頬を緩めたヨザックに、僕は歩み寄る。 「あのさ……僕も、だよ」 「はい?」 主語のない僕の言葉に、ヨザックはほんの一瞬だけ意味を捉えかねていたみたいだけれど。 「………猊下」 勘のいい彼はすぐにさっきの返事だと気付いてくれ、嬉しそうに表情を輝かせた。 少し遠くで、渋谷がこちらに向かって歩きながら僕達を呼ぶ声が聞こえた。それに手を挙げて応え、ヨザックと一緒に歩き出す。 ただ、いつもと違うのは見えない位置でこっそりと繋いだ手と手。気持ちを確かめるようにギュッと握った手は、渋谷達が近くなってきた時にそっと解けた。 離す瞬間、ヨザックがちらりと僕に目配せした。 そうだね。この事はまだ、もう少しだけ僕達だけの秘密にしておこうか。 別に知られても構わないし、いつまでも隠しておくつもりもないけれど。あと、ほんの少しだけ……。 END . <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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