Book1
傍にいてほしい人
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「おめでとうございます、陛下!」

「おめでとうございます!」

たくさんの声が、何度も俺に向けて祝いの言葉をくれた。

「ありがとう!みんな、本当にありがとう!」

ギュンター主催の俺の聖誕祭。たくさんの人が俺のために祝ってくれて、笑顔をくれて、楽しんでくれて……。本当に嬉しくて胸が熱くなってくる。

でも、こんなに嬉しい瞬間を一番傍で分かち合いたい相手は、今俺の傍にはいない。

あちこちから来る呼びかけに応えながら目線だけで探してみれば、随分と遠い所にその姿を見つけた。何でそんな遠くにいるんだよ?

そりゃ、ずっと隣にって訳にはいかないかもしんないけどさ、今日はまだ一度も話してさえいないってのに、近くにすら来てくんないのかよ。他のみんなは割と近くにいてくれて、少なくとも一度は声かけてくれたのに。

……何かさ、ちょっと寂しいじゃんか。

目が合ったから少し不満げな視線を送ってみたのに、軽い笑顔を向けてきただけで近付いてくる様子はない。いつも俺の傍にいてくれるお前が、今日に限ってそんな遠い所にいるなんて……。

たくさんの人に囲まれて幸せで心は暖かいのに、何だか隣が涼しかった。

*

宴が終わって自室に戻ってきた俺に、静寂が出迎えた。

いつもなら勝手に部屋に入ってベッドを占領しているヴォルフラムも、可愛い愛娘も今夜は何故かいない。

何だよ、いつもは出てけって言っても居座るくせして。今日に限って一人にするなよ。

賑やかな宴の後だから更に強く感じた寂しさに、俯いてため息を吐いた時―――。

「………?!」

後ろから、暖かい腕に抱き着かれた。

「何、で……」

振り向かなくても分かる。これは、俺が今一番ほしい腕だ。

一番傍に来て欲しかった人物のふいの登場に、俺はそれ以上言葉が出なくて。腕からすり抜けて向かい合うと、柔らかい口調でおめでとうの言葉をくれた。

改めて言ってくれた祝いの言葉。大勢の人達の前にいる魔王の俺にではなく……プライベートの、ただの渋谷有利にくれたおめでとう。

そして俺だけに向けてくれる特別優しい笑顔に、泣きたくなるくらい嬉しくなって思い切り抱きしめた。

「ありがとう……―――」

二人だけの誕生祝いはこれから明け方まで続いた……。

ちなみに何をしていたのかは、俺達だけの秘密にしておく。


END


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