1/1ページ目 俺が家に帰ると、リビングのテーブルにラッピングされた小さな箱が置かれていた。 すぐには信じられなくて二度見して、コーヒーを入れるためキッチンにいた先輩に振り返る。 「せ、先輩……あの、これ……」 今日は俺の誕生日で、まさか……もしかしたら……! ドキドキと心臓が早くなるのを感じながら先輩の様子を窺うと、先輩は不機嫌そうな表情でそっぽを向いた。 「た、誕生日なんだろ!」 え、え〜?! 先輩が! あの先輩が、俺のために?! どうしよう。嬉しくてたまらない。 「開けていいですか?」 「お前のだ。好きにしろ」 丁寧に開けてみると、中身は……。 「あ、これ俺が前に気にしてた…!先輩!」 前、一緒に買い物に行った時、買おうかどうしようか迷った物だった。あんな些細な事を、覚えててくれたなんて感動で泣きそうだ……! 「べ、別にわざわざ買ってきた訳じゃねぇ! たまたま近くに行って、たまたま目についたから……」 相変わらずの憎まれ口。でもそれは、照れてるだけ。先輩が本当は優しいのなんて、俺はよく知っている。 「ありがとうございます……」 あぁ、顔が勝手ににやけちゃう。先輩が大好きで堪らない。 「チッ……!」 怒ったような照れ隠しで食卓の椅子に腰掛けた背中が愛おしくて、耳の赤い先輩を思わず抱きしめた。 * 八月三日 俺が家に帰ると、食卓はやたらと豪勢な食事が所狭しと並べられていた。 「……何だこれ」 今日は俺の誕生日で、まさかとは思うがコレは……。 「今日は先輩の誕生日じゃないですか! せっかくだからご馳走にしました! 特別な日だから張り切ったんですよ!」 満面の笑みでオーブンを開ける森永に、まだあんのかよとツッコミを入れるより先に口が開く。 「はぁ?! いちいち祝うような歳かよ?! 第一、先月のお前の誕生日の時は何もしなかったろうが!」 プレゼントは一応渡したが、食事はいつもと変わらなかった。っていうか、食事を用意したのは森永自身だったが。 「俺はいいんです。それより、俺にとって今日は何より大事な日なんですから。先輩、産まれてきてくれてありがとうございます」 本当に嬉しそうに言いやがるから、毒気が抜けた。 何だよ、それ。クソ、こんな事なら先月、外で何か奢ってやれば良かった。そんな考えがよぎったが、それも今更だ。 俺は熱くなる顔を見せないよう、森永から視線を外す。 「……アホか」 そう呟いて、逃げるように手を洗いに洗面所へ向かった。 あいつはいつもストレートすぎて、どう対応したらいいか分からなくなる。全く、面倒くせぇ……。 見ないようにしるってのに目の端に鏡の向こうの自分の顔がひっかかって、向こうから森永が呼ぶ声が聞こえたが、すぐには戻れなかった。 END . <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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