Book2
雨宿り
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彼、村田健くんと付き合い始めて数週間。家が近い私達は、学校帰りに駅で待ち合わせて一緒に帰るのが、当たり前になりつつあった。

空を覆う灰色の雲が、夕方でもまだ明るさが残るこの時期の帰路を薄暗くしていた。

「降りそうだね〜。僕らが帰るまでもつかなぁ」

「傘、持ってくれば良かった」

一昨日も雨だったせいで、いつもなら入っているはずの折り畳み傘が、今日に限って入っていない。降るのは構わないけど、あと数十分だけでいい、待ってほしい。

願いも虚しく、近道をするために通る公園まで来た時、パラパラと雨が降り出した。

「あ〜、降ってきちゃったか……少し走るよ」

え……って思った時には、健くんは私の腕を取って、小雨の中を駆け出した。

こんな時になんだけど、普段あんまり手を繋がないから、優しく掴んでくれる温かい手が嬉しい。

近くの東屋に入ると、息を吐いて濡れた前髪を払う。するりと解放された腕が、涼しくなった。

「予報だと、すぐに止むみたいだから、少し雨宿りして様子をみようか」

「そうだね」

ポケットから出したハンカチで顔や腕を拭いていると、健くんは眼鏡を外してレンズを拭き始めた。

「あ……」

「ん? 何、どうしたの?」

「いや……眼鏡、外してる所見たの、初めてだなと思って」

「あぁ、そっか。そうだね」

レンズ越しじゃない健くんの瞳が、真っ直ぐに私を見つめてくる。眼鏡ないのもカッコいい。

「ご希望なら、いつでも見せるよ? 君だけに、ね。ただし……」

ふいに、近付く距離。降りてきた、眼鏡のない健くんの、顔。そして……。

「…………っ」

「その時は、眼鏡が邪魔になるからだって事を、覚えておいてね?」

ちょっと意地悪な表情で離れた健くんは、すぐに眼鏡をかけ直し、何食わぬ顔で空の様子を見始めた。

さっきは、眼鏡を外した所がまた見たいと言うつもりだったのに、最早何も言えなくなってしまった私は、それでも、もう少しこの雨が降り続けばいいと思った。

END
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